夢の園のレビューが0 件あります
レビューを投稿する5件のネット上の評価があります
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60
sakuhindb
随分前に読んだ気がしたけど、評価の際に再読ああ、吉田秋生は変わっていないなあと実感、吉田秋生の原点を見たような気がした表題の『夢の園』は内気で繊細な弟を見守るしっかり者の兄の話で兄弟の絆を描いた作品 『バナナフィッシュ』で英二を評して、「他人のかすかなSOSを嗅ぎ取る力がある」と描いていたがこの人の作品は、強い者が弱い者へ手を差し伸べる話が多い『街道dairy』で長女の幸は腹違いの妹すずの境遇を知って無理を押して引き取り、英二は危険だと知りながらアッシュに最後まで寄り添ったではこの人自身、繊細で博愛的な人かと言えばそうはみえず、どっしりと大地に根を張った大木のような精神の人で、この間鬼籍に入られた樹木希林さんを思い起こさせるような豪胆で鋭さのある作家でもある。通常の人なら投げ出してしまうダメ亭主を突き放しながらも最期まで見守り、面倒をなにくれと見ながら、「惚れてるのよ」と一言で済まし、壮絶な夫婦喧嘩も洒落と笑い話にして、飄々と生きたロックで恰好の良い人生哲学を持った人だったが、その辺のハードボイルド顔負けの「強さ」と「優しさ」に同じものを感じる 『夢の園』の兄も弟を完全に理解しているわけではないしかし、どこかううすぼんやりと弟が苦しんでいることを感じ取っており、そばに居てさりげなく手を差し伸べようとする吉田秋生が描く人物のスタンスは「理解する」ではなく、常に「傍に寄り添う」「見守る」であり、支えようとするが決して見返りは求めない、見返りの愛情は全く必要ないのだ、彼女の描く男も女も真の「強者」だからだでも理解していないわけではないラストに弟のいるところは「夢の園」であり、自分のいる陽の当たる所にいつかは来てほしいと締めくくっている弟がいる場所が「夢の園」だとちゃんと感じ取っている家族の絆を描くのが上手い作家の原点を見ることが出来る作品 『解放の呪文』も兄弟の話だが、テニスチャンピオンの兄が後から追いかけてくる弟に王座を奪われまいとする話弟の天与の才を認めながらチャンピオンとして意地を張り続けるが、同時に可愛がっていた弟への愛情とチャンピオンとしての意地で板挟みになる 問題の説得シーンだが、最も重要な部分だけを大胆に切り取って見せるという吉田秋生の持ち味が出ているように思うこの場面で会話している弟ファーンの心の動きはあまりクローズアップされていない焦って言葉を並べるダグの心の動きは会話中心で示されるしかし、説得シーンの最後にカメラを引いて、部屋に張ってあるダグのポスターを見せることで、暗闇に生きていたファーンにとってダグは先に見える希望の光だったことがはっきりわかるファーンにとってダグとはどういう存在かだけを強く印象付けようとしている演出つまり2人の関係性に注目して、演出ではそれ以外の枝葉末節を大胆に切り捨て、ストーリーのキモである兄弟の絆をわずかなページを使って強調しているいかにも伝えたいことがはっきりしている人のショットらしく、映画的映画監督で言えば、クリント・イーストウッドにも似ているただ豪胆だが粗い漫画家で言えば、浦沢直樹も映画的なコマ運びが多い印象で、特に『MONSTER』の廃屋に侵入するシーンで、映画顔負けの演出をしていたことが思い起こされる同じく映画的とは言え、浦沢直樹の方が緻密で華麗な、流れるようなコマ運びの演出テクニックを持っている吉田秋生の手法は、表現したい対象を鉈で切り取るように大胆だが、細かなニュアンスを伝えるに向いているとは思えない大胆に対象を切り取ることで、メッセージは力強くなるが、同時に手の隙間から零れ落ちるものが多くなるからだ『解放の呪文』が成功しているのは、ダグとファーンの関係性に焦点が絞られており、シンプルな筋書、力強い兄弟の絆の物語だからこの手法が引き立ったのだろう吉田秋生の長編がそこそこ面白くても他の作品に目が行ってしまうのは、長編になると複雑なプロットが災いして、この豪胆さが逆に粗さとして目立ってしまうからではないかと思う ただ家族や姉妹、兄弟の関係性を描いたシンプルなストーリーの作品は昔から得意で持ち味を発揮する『バナナフィッシュ』でも英二とアッシュの関係性に最後は焦点が当たってしまっていたこの人の描きたいのは、ありがちな「愛」でも「サスペンス」でもなく結局は人と人の深い「絆」なんじゃないかなあと思うやっぱり『街道diary』で、家族と家族の関係性を描く物語に原点回帰したのは良かったんじゃなかったかなと改めて思わされた吉田秋生の作家性を考察するに、読み直して良かったと思わされた作品だった まあ、コマ分析についてはこれ以上は自分には難しいどちらかと言えばラフな画でアクションもあまり上手いとは言えないし…テニスの試合シーンもコマの大きさとか構図とかが単調というか、アクションシーンの空間の使い方が下手なのか…どうなんだろう?漫画の空間の使い方は映画と違う(コマの大きさを変えられる)ので、読んでいる量が少ない自分には問題点が把握しづらいコマの中の時間を一時的に止めて見せるけれん、はったりはアクション映画におけるスロー、ストップモーションと同じで漫画でも使われるのだけど使い方が上手い人とそうでない人に分かれ、彼女はあまり上手いようには見えない漫画のコマ分析については評論家の夏目房之介が何冊か執筆されているので、お好きな方は読まれていると思う自分は1冊しか読んでいないので、分析ができないのが残念漫画を読んだ量も少ないので結局は映画で例えているしw 余談・『解放の呪文』は『リバー・ランズ・スルー・イット』を撮ったロバート・レッドフォードがいかにも好きそうだなという印象でもレッドフォードが撮ったら弟目線に変更されそうだなあ ・『解放の呪文』のラストで母親が夫に「あなたトイレは済ませたの?」と声を掛けるのだけどこの短い一言で妙に「家族らしさ」「生活感」が出ているよなあと感心したキャラを身近に感じたセリフと演出だった ・ラストシーンは風景描写の大ゴマにモノローグが入って終わるのだけど、ここで主人公の葛藤描写中心の閉じられていた世界が、葛藤を終えて空間(世界)が大きく開いていく感覚を演出しているこれって吉田秋生だけでない演出だけど、昔の漫画にはなかった高度な心理演出手法のような…
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80
sakuhindb
バナナフィッシュもアニメ化されて、若い人にも吉田秋生という存在が、再び知られる機会がきたんじゃないかなあ、ということで、その紹介がてら・・・吉田秋生さんで、一番売れた代表作といえば、確かにバナナフィッシュでしょうこの後も、しばらく、「YASHA-夜叉-」であったり、「イヴの眠り」であったり、アクションぽい路線を描き続けるんですが、私個人の感覚すると、それは、本来の吉田秋生の資質からすると、ちょっと違うんじゃないかなあ、と思い続けていました。この人は、いわゆる漫画的ハッタリをかませなくても、そのストーリー構成だけで十分面白い漫画が描ける人だからです。その代表作ともいえる作品が、この短編集に収められている「解放の呪文」です。あらすじ書いてしまうとネタバレになるので、書きませんが・・・義兄ダグが、義弟ファンにプロ転向をやめるように説得するシーンそして、なぜ自分がプロになろうと思ったか、をファンがダグに説明するシーンこれが、恐ろしく上手い。コマ運びも含めて、簡潔に、そしてインパクトある表現に仕立てあげている。いやぁ、ストーリー構成とカメラワークに気をつければ、短編でもちゃんとこういう表現できるんだなあ、恐れ入ったシーンでした。ただ、この短編集は「解放の呪文」以外は「カリフォルニア物語」の前日譚です。その部分は、やっぱり「カリフォルニア物語」を読んで頂かないとわからないと思いますので吉田秋生初心者に、いきなりこれから読むのは向いてない本なんですがまあ、なにかのおりに読んで頂ければなあ、という一冊です。評価は「とても良い」で。
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80
cmoa
「ジュリエットの海」はノスタルジーと不穏な運命を感じる短編。大人に振り回され、早く大人になりたいのに運命に抗えない子ども。「夢の園」はテリーとヒースの兄弟関係がそのまま「BANANAFISH」のグリフとアッシュの関係に変換されました。泣ける。
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80
cmoa
こちらは短編集なので色んな作品が入ってまして。この作家さんの味が分かっていいかなぁと。長編で有名な作品が多いですが、短いのも余韻があって好きです。
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100
cmoa
【このレビューはネタバレを含みます】 読めば読むほど、お兄さんの最期が悔やまれる。いい人ほど早くに逝ってしまう。